日本人ではまだ二人しか取得していないコート オヴ マスターソムリエ認定アドバンスド ソムリエの資格を持ちながら、まだまだ自己練磨し続ける千葉さんにカリフォルニアワインの魅力について語っていただきました。
この記事のポイント
千葉 和外さん
1992年、フランス料理店シーンに入店。
6年間勤務後、ウェスティン東京のメインダイニング「ヴィクターズ」にて4年間経験を積み、渡米。
カリフォルニア州ナパヴァレー大学にて醸造学・ブドウ栽培学を学び、その後カリフォルニア屈指のレストラン「オーベルジュ ド ソレイユ」に勤務。シェフ ソムリエ“クリス マージェラム”に師事し、カリフォルニアワインを奥深く学ぶ。
2007年帰国後、サイタブリア(西麻布)・オルタシア(麻布十番)にてシェフ ソムリエを歴任し現職に至る。
国際ソムリエ協会(A.S.I)認定ディプロマ第6回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト
コート・オヴ・ マスターソムリエ認定アドバンスド ソムリエ
ワインスクール アカデミー デュ ヴァン講師
パリの三ツ星で働きたいという夢をもっていた20代
本日はよろしくお願いします。
日本人ではまだ二人しか取得していないコート オヴ マスターソムリエ認定アドバンスド ソムリエの資格を持ちながら、カリフォルニアワインの伝道師として活動を続けている千葉さんですが、そもそも何故カリフォルニアワインに注目されたのでしょうか?
20代の頃はブルゴーニュワインが好きだったのです。フランスワインばかり扱っていました。
貯金をして修行に行って、パリの三ツ星で働きたいという夢をもっていたのですが、日本でソムリエの資格を取って、気がついたら30歳になっていました。
周りを見回してみると、フランスワインに精通しているソムリエが既に結構いました。しかし、その人達も高いポジションにいる訳では無い。
ブルゴーニュを極めたいという人は山ほどいるんです。
ワインブームが始まって数十年。
今更貯金をすべて使ってフランスに行っても意味があるのかなと考えるようになりました。
なるほど。
カリフォルニアワインに対して、その頃はどんな印象を持たれていたんですか?
カリフォルニアワインを取り扱っているお店はステーキハウスとか、ソムリエがいないようなカジュアルなお店しか当時はなかったのです。
カリフォルニアなんか全部甘いし同じだと思っていました。
やっぱりワインはフランスだよ、と。
そうだったのですね。
それが何故カリフォルニアに?
運命を変えた一本のワイン
恵比寿のウエスティンホテルでソムリエとして働いている時に近所にワインショップがあり、カリフォルニアワインセレクションを行っていました。
ワインショップの一番奥にある、高級カリフォルニア・ワインコーナーに、1985年のRIDGE Monte bello (リッジ モンテベロ)があったのです。
当時2002年だったと思います。
「カリフォルニアワインって熟成しないはずだよなー」と思いながら何故か買っちゃったんですよ(笑)
家で飲んでみたら、下手なボルドーより全然美味しい。熟成もされている。
なんだかワクワクしてきたんですよ。これ、何かのサインだなと思ったんです。
それでその時にカリフォルニアに行こうと決めました。
渡米することを決めてからワインと英語の勉強を並行してするようになりました。
まさに1本のワインで運命が変わったのですね。
あの時に飲んだワインが、ハーラン・エステート(カリフォルニアのカルトワインと呼ばれる超高級ワイン)とかだったらまた違う人生になっていたと思います。
面白い!実際にカリフォルニアに行ってみてどうでしたか?
やはりカリフォルニアにもフランスと同じでちゃんとテロワール(生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語)がある。
お金だけのことを考えて作っている訳ではなく、職人がいる。
当然ですが、山も谷もあり、暖かい所・冷たい所、霧が出るところもある。葡萄に影響を与える要素が沢山ある。
カリフォルニアにはフランスに負けないくらいのテロワールがあり、それが解ってからどんどんカリフォルニアが好きになっていきました。
ブルゴーニュと違い、出会ってから好きになったという感じですね。
先ずは大学に入られたんですよね?
そうです。当時32歳。ナパ・ヴァレーカレッジという大学に入学してワインの醸造学とブドウ栽培学を学びました。
夜間の大学だったので、既にワイン業界に携わっている方が多く通っていました。
様々な方と知り合えましたし、他の学生から出てくる質問も本当にリアルでとても良い経験になりました。
日中はワイナリー巡りもしていました。
凄い充実していて、本当に楽しかったですね。
必要単位数をとって、労働許可がおりて就職活動をしました。そこでオーベルジュ・ド・ソレイユというレストランで1年間働きました。
アメリカと日本でソムリエをしていて違うことってありますか?
やることは変わらないですよ。
ただ、アメリカのほうが圧倒的に収入は良いです。
チップ文化なので、顧客満足度がそのまま収入につながるので、ハングリーさを学べました。
カリフォルニアワインの魅力
カリフォルニアワインの魅力を改めて教えてもらっていいですか?
ブルゴーニュと変わらないですよ。
やっぱりテロワールとか、造り手とか、色々な要素が味わいに反映されているのがワインの魅力。
20代の時、ワインのプロとして仕事していましたが、カリフォルニアワインにテロワールがあるとは思っていなかったのです。
矛盾するかもしれないけど、カリフォルニアワインを知るためにはフランスワインを知らないといけない。
フランスワインを知らない人間にカリフォルニアを色々言われても誰も聞いてくれないんです。
遠回りに見えますが、20代でブルゴーニュにどっぷりハマっていてよかったと思っています。
千葉さんの個人的な好みをお聞きしたいのですが、シャルドネ・ピノ・ノワール・カベルネ・ソーヴィニヨンのそれぞれの葡萄で一番好きなワインを教えて下さい。
贔屓になっちゃいますよね(笑)
カベルネだったらダイヤモンドクリーク(長期熟成するカベルネ・ソーヴィニヨンの最高峰といわれているワイン)。
シャルドネはリトライ(ブルゴーニュの魂を持つエレガントなピノとシャルドネと表されるワインです。)が好きです。
ピノ・ノワールもリトライになっちゃうのかな。リトライがとにかく好きなんです。
あとは、マウントエデン。
あぁ、リッジ モンテベロはもちろん好きですよ。きっかけだし。
言い出したら本当にキリがないです(笑)
カリフォルニアは良いワインたくさんありますよ。
今後、カリフォルニアワインがどうなっていったらいいなとかありますか?
フランスワインと同じような目線で、日本のワイン好きな人たちがカリフォルニアワインを見るようになったら嬉しいですね。
なんだかんだいってベースはフランス。ブルゴーニュです。
初心者がカリフォルニアワインを学びたい時はどうしたらいいでしょうか?
正直、そんなに簡単じゃないですよ(笑)
ブルゴーニュを勉強しようとすると先ずつまずきますよね。
村があって、造り手がいて、違う作り手が畑をシェアしていたりします。グラン・クリュが一番上のクラス。でも、ボルドーでグラン・クリュはたいしたこと無い。
はっきり言って複雑で意味がわからないと思います。
でも、意味がわからないから奥深くてのめり込んでいくのです。
ブルゴーニュをどんなに極めてもブルゴーニュの全てを分かったと思っている人はなかなかいない。常にまだわからないことがあるんです。
カリフォルニアも実はブルゴーニュと同じぐらい複雑なんですが、シンプル化されて伝えられている。だから分かったつもりで飽きてしまう人が多いのです。
カリフォルニアワインを扱うソムリエとして
ちなみに、ソムリエとして大切にしていることってありますか?
やはりお客様とワイン生産者の間にいる立場なので、しっかりと橋渡しをしたいです。
特にカリフォルニアは自分の目で見ています。肌で触って自分で感じて生産者とも近かった。
あの人達のパッションとかテロワールを伝えたいです。
うわ。凄いですね!
それを伝えられるソムリエの方は多くはないですよね。
カリフォルニアワインはストーリーばかりが先行してしまいがちです。
例えば、1976年にフランスで行われたブラインドテイスティングで、歴史あるフランスワインよりカリフォルニアワインの方が評価が高く世界のワイン業界を揺るがしたパリテイスティング。
語るのも悪いことではないです。
しかし大切なのはそこじゃない。
カリフォルニアワインが広く知られていないので、土地や作り手のことではなく、背景にあるストーリーばかりが語られてしまうということですね。
そのとおりです。
「昨日アルマン・ルソー(ブルゴーニュで最も偉大なワイン生産者の一つ)を飲んだんだ。」ってワイン好き同士が会話すれば「畑は?」ってみんな聞きます。
ところが、「キスラー(カリフォルニア・シャルドネの王として君臨する造り手)を飲んだんだ。」って言って、「畑は?」って聞く人がどれだけいるかなんですよね。
カリフォルニアワインもストーリーではなくてブルゴーニュと同じ感覚で、土地の個性・作り手のパッションを知っていただきたい。
それを伝えていくことがソムリエをしていて一番大事にしたい所ですね。
そういったリアルな話はもっとお聞きしたいですね。
僕もカリフォルニアワインが好きなので実に興味があります。
今度ゆっくりお店に飲みに来てください。
ワインはストーリーも大事だけど、僕の場合は肌で感じた話ばっかりしてしまいます。
ワインの道は奥深いですね。
ちなみに、最近は「これをグラスで飲んでみたい!」という面白い試みもされていますよね?
レストランで15,000円~20,000円ぐらいのワインをボトルではなくグラスで飲んでみたいな~っと思う事はしばしばあります。
特に情報が少ないカリフォルニアワインでこの高価格帯をボトルで頼むのは勇気がいると思います。
そこでこのクラスのカリフォルニアワインをグラスでご紹介できたらと思いました!
人気があるワインって、凄く高いか凄く安いかなのですよ。でも、ミドルクラスあたりの価格帯って一番面白いです。手が出しづらいし、正直美味しくないのもある。
それを自分というフィルターをかけて出しているので自信を持ってお出しできます。グラスワインだと多くの人に飲んでもらえるからはじめました。
確かに僕もそういうのがあったら色々冒険してグラスワインをガンガン頼みたくなっちゃいます。
思ったより需要があるんですよね。
驚きました。
しかし、ワインに興味がない人にとっては1杯3,000円は高いですよね。
てっきり“La Ruée vers l’or”(ルエ ヴェル ロール)はかなりマニアックなカリフォルニアワイン好きが集まっているお店だと思っていました。
そのクラスのワインが一杯3000円だとお得に感じてしまいます、高いと思うお客様ってやっぱりいらっしゃるんですか?
フレンチのお店なので、ブルゴーニュ好きのお客様やワインにはそこまで詳しくないお客様もいらっしゃいます。
特に接待でご利用になるお客様。ホストの方はカリフォルニアワインに詳しくても、お連れ様は余り詳しく無い方もいらっしゃいます。
フランスワインはわかりやすいですからね。持っていってラベルをお見せすると、皆さん「おぉっ!!」となります。
カリフォルニアワインは高級なワインでもラベルに動物の絵とかが書いてあります(笑)
だから連れてこられた方は「たかだか6,000円のワインを出されたの?」と思われてしまう場合があるのです。
それなので、「お客様のためにこんなワインをご用意しました」とニトログリセリンを持っていくかのように丁重にお持ちして、そのワインの良いところを褒めちぎります。
お連れ様がいる場合は、値段は当然言えません。それなので、値段を言わずにワインの価値を伝えることもソムリエの仕事です。
カリフォルニアワインを扱うソムリエはプレゼンの仕方も考えないといけません。
たしかにソムリエの方に熱くワインの良さを語られると知らないワインでも凄いものに見えてきそうですね。
やはり演出は大事です。
そうではないとワインもお客様も可哀想ですからね。
本日は千葉さんのカリフォルニアワインに対する熱いパッションを感じられました。
本当に有難うございます。
最後に、今後はどういった活動を行っていくのかを教えてください。
もう少し店舗を増やしていきたいなとは考えています。増やしても3店舗までと思っていますが、やっぱりプレイヤーとして動きたいのですよね。
仕入れをしている時も「このワイン、あの人に出したらびっくりするだろうな。」などと考えながら仕入れが出来るのが楽しくて。
後は、ワインスクールとかもしばらくしたらやりたいですね。
今後の展開が色々と楽しみですね。
本日は本当に有難うございました!
La Ruée vers l'or (ルエ ヴェル ロール)
- 住所
- 東京都港区南麻布1-5-4 NKCビルディング 2F
- 電話番号
- 03-6453-9274
- URL
- http://www.la-ruee-vers-lor.com/
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