熟成肉とは?

ここ10年近く日本では熟成肉ブームが起きています。

最近は何度か熟成肉を食べに行く機会があり、その肉の旨味の奥深さに触れる事が多くなってきたことから、熟成肉とは何か?を改めて知りたくなり熟成肉の先駆者 格之進の千葉祐士氏にお話を伺いながら、熟成肉とはなんぞや?ということを掘り下げていきます。

熟成肉とは?

お肉を一定期間熟成させて、更にお肉を美味しく食べれるようにしようというのが熟成肉です。千葉氏曰く「お肉の表情をもっと豊かにしてあげる」事が熟成肉ということです。

ただ、熟成肉にはまだ定義がないのです。極端な話、家庭用の冷蔵庫でスーパーで買ってきた肉を数日放置しただけでも熟成と言えば熟成なのです。賞味期限内であればもちろん食べることが可能です。

実は、熟成は昔から行われていました。
まだ冷蔵庫がなかった時代、欧州で食肉を冷涼な洞窟や地下倉庫などに吊るして保存したことが起源と言われています。

近年では冷蔵冷凍技術も発達して色々な保存方法が確立しているので、さらに美味しくなるために様々な熟成の手法も確立し、熟成技術は年々向上していると言えるでしょう。

基本的には牛肉で行われる事が多いですが、ジビエや羊肉で行う場合もあります。

熟成をさせるとどう味が変化するか?

何故肉を熟成させると美味しくなると言われているのでしょうか。熟成をさせると牛肉はどのように変化するのでしょうか。

熟成で旨味が増す

牛肉は熟成することで自己消化酵素が働き、タンパク質が分解されてペプチドになり筋膜が高濃度なアミノ酸に変化します。
旨味成分であるアミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸が熟成させることで通常のお肉の数倍にもなると言われています。

旨味成分は大きく分けてアミノ酸、イノシン酸、グアノル酸に分かれていて、それらの量に応じて変わると言われています。
当然、アミノ酸が増えることで肉の旨味は増すのです。

熟成で柔らかさが増す

また、自己消化酵素によってタンパク質が分解されることでお肉は柔らかくなっていきます。
そのため、熟成肉は加熱した際に固くなりづらく、スジのような筋膜自体の組織は弱まり肉が柔らかくなる効果が得られるのです。

旨味がでて、肉が柔らかくなる以外にも熟成をさせることで大きな効果が期待できます。

熟成で和牛香をだす

千葉社長曰く「美味しさを決めるための重要な要素の一つは香りにある」とのことです。
和牛を熟成させるとラクトンと呼ばれる香り成分が増加されることが報告されいてます。
しかもこのラクトンという成分は赤身中心の欧米の肉よりも、サシが多い和牛のほうが多く感じられることが確認されています。
所謂、「和牛香」と呼ばれる和牛特有の甘い香りです。

この和牛香を出すことも肉を熟成させることで得られるメリットです。

熟成でロースト香を出す

アミノ酸の結合している800種類の中のひとつ、ペプチドから香気成分のラクトンがたくさん出てくることで和牛香が出てきます。
そして、熟成肉は加熱調理をした際にメイラード反応(還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド及びタンパク質)を加熱した時などに見られる、褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のこと。)によって、ピラジンという香気成分の生成量が増加することが国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の渡邊彰先生の論文によって、報告されています。

ピラジンはいわゆる肉が焼けた時に生じる美味しそうなロースト香に大きく関係すると言われている成分です。

千葉社長曰く「熟成をさせる目的は柔らかくして、甘くして、香りを強くする。ラクトンをたくさん出るようにするためにするのが目的。」

熟成肉には多くのメリットがあることが確認できました。

熟成の種類

熟成には大きく分けて4つの種類があります。

ドライエイジング(乾燥熟成)

牛肉のブロック又は枝肉(半身)などを乾燥熟成庫内に一定期間貯蔵する熟成方法です。庫内の温度を0~4℃、湿度は80%前後に保ち、常に肉の廻りの空気が動く状態を作り、その中で14~35日間熟成させるのがドライエイジングです。

主にアメリカの牛肉の格付けの最上位であるプライムや、チョイスグレードを乾燥熟成させて美味しいステーキにして出すレストランがアメリカにはあり、日本にも近年進出しています。

千葉社長曰く「水分が抜け過ぎてしまい、香りが弱かったり甘味が弱い牛を乾燥熟成させるとあまり美味しくなくなってしまう。」

実際、アメリカではプライムやチョイスグレードのサシが多く入った肉を乾燥熟成させるのですが、脂の量は和牛とは比べ物にならずA2位の霜降りのお肉を乾燥熟成させているようです。

枯らし熟成

実は元々日本ではこの枯らし熟成は古くから行われていました。もちろん熟成という言葉が使われ始めたのはつい最近ですが、1970年代くらいまでは多くの小売店でこういった手法が使われていたそうです。

牛肉の半身(一頭買いとは、半身2本分)をすぐに解体せず、一定温度の冷蔵庫に入れ、4週間ほど枝肉のまま保管する熟成方法です。
そこに風を当てて空気が当たると適度に水分が抜けていって熟成されていきます。

ちなみに肉の消費期限は骨から切り離した状態からカウントが始まります。枯らし熟成は骨から外さないことで、1ヶ月以上熟成させることも可能なのです。

千葉社長曰く「骨が有ることで、生きている状態と同じ状態で肉が保存され、肉にストレスがかからない状態で熟成が出来る。」

つまり、骨から肉を外すということは生きている時には絶対に有り得なかった衝撃が肉に起こってしまうため、肉にストレスがかかってしまうということです。

ちなみに格之進の熟成方法はこの枯らし熟成を採用。「枝で枯らす事によって濃い味わいが出てきた」と千葉社長は言います。

ウェットエイジング

実は大部分の熟成肉はこのウェットエイジングという手法が取られていることが多いです。
そのため、エイジングとか熟成と単純にいう場合はこのウェットエイジングを指す場合が多いです。

乾燥させずに脱骨してブロックの状態でバキュームパック(真空包装)内で熟成をさせる熟成方式です。
簡単で歩留まりがよく、コストも余りかからないため、一般的に普及しています。

空気に触れていないため、分解速度はゆっくりになります。
また、北米等や海外から日本に来る肉の大半は真空包装で輸送にかかる時間がちょうど1ヶ月位のため、ちょうど熟成に適しているため店頭に届く頃には食べごろになっているとも言われています。
ただ、消費期限の関係で45日以上は熟成が出来ず、分解速度が緩やかなためどうしても熟成度は低くなってしまいます。

ただ、千葉社長も「最初はこれで気がついたんだよね。」と。真空で保存していた肉が美味しくなっていた事に気づいたことから熟成肉の本格的な研究に入ったということです。
格之進ではウェットエイジングは保存と考えて店頭で保存をする際は真空状態でウェットエイジングを行っています。

乳酸菌発酵熟成

脱骨してチーズやヨーグルトなどの乳酸菌をふりかけてチルドで保存するのが乳酸菌熟成です。
乳酸菌が蔓延するので腐敗が起きにくいのが特徴です。

「腐敗臭が出てこなくて100日くらい余裕で持っちゃいます。」

ただし、乳酸臭がするということで、実用化して熟成肉として販売しているお店はまだ少ないです。

肉おじさん 千葉祐士厳選の 熟成肉が美味しいお店6選

せっかくなので、格之進を含む熟成肉が美味しいお店を千葉社長に聞いてみました。
自社の店舗以外の熟成肉が美味しいお店もピックアップして頂けましたのでご紹介します。

熟成肉の格之進

岩手県のブランド牛・門崎熟成肉の専門店「格之進」。
一関や東京のレストランをはじめ、オンラインショップでも門崎熟成肉をお召上がりいただけます。牛の生産・加工・販売生産・加工・販売までを行っていて、この記事内でも何度か登場する千葉社長が経営しています。


人形町今半

すき焼き、しゃぶしゃぶを中心とした明治28年創業の老舗です。
日本全国より目利きが選んだ黒毛和牛を「人形町今半黒毛和牛」として販売もしています。
人形町今半には長年培われてきた技術を結集した精肉調理法があり、「食感」「美味しさ」「美しさ」を最大限に引き出しております。


銀座 吉澤

松阪牛を中心にすき焼き、しゃぶしゃぶ、割烹を中心とした割烹料理の老舗です。
経験によって培われた目利きにより、全国の銘柄牛から選び抜かれた雌牛だけを一頭仕入れしています。
厳選された雌牛を水冷式の冷蔵庫で骨付きの状態でじっくりと熟成しています。


中勢以

田園調布にある熟成肉の専門店です。
神戸牛、但馬牛を使った「美味しさ」にこだわる枝肉熟成で熟成肉を販売しています。
熟成肉が食べられるレストランと熟成肉の販売を行っています。


鉄板焼 Kurosawa

築地市場で仕入れた魚介。長期熟成した黒毛和牛。
無農薬、有機栽培を使用した野菜などを素材にしたフレンチ鉄板レストランです。
岩手県産の黒毛和牛を中心にステーキに最適な肉を厳選しています。


キッチャーノ

肉に拘ったメニューがない店Specialita` di Carne CHICCIANO。
熟成用のドライエイジング専用貯蔵庫で最高の美味しさに熟成させるため、庫内の温度や湿度を一定に保ち、風を当てながら肉の廻りの空気を絶えず対流させます。
熟成肉の旨味を最大限に引き出すために、炭直火焼き。

熟成肉

熟成肉について色々とまとめてみました。
とりあえず千葉社長が厳選した6店は要チェックです。

また、既に十二分に美味しい食事を提供している多くのレストランも、調べていくとさらに美味しく。もっと美味しくするためにどうしたら良いかを常に創意工夫し、飽くことないチャレンジを繰り返していることが確認できました。

そうやって僕らは美味しい熟成肉を食べることが出来ているんです。
実に幸せなことですね。

FOODee編集長 アカヌマカズヤ: FOODee編集長。フードブロガー。 株式会社BNF 代表取締役。 元IT会社の経営者。 熟成寿司専門店 優雅、飲食業界専門のクラウドファンディング Foobee 、FOODee IM